北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告

Status Report of Grey Herons in Hokkaido

野幌コロニー

コロニーの内部(1990年代前半)

北広島市西の里、野幌森林公園内にあったがすでに消滅している。コロニーのあった森は公園の南東端部に位置し、民有地の中に離れ小島のように存在する針広混交林である。林内は概ね平坦であるが、数本の沢が森を東西に横切っており、場所によっては沢沿いが急斜面になっている。コロニーの大部分は2本の沢に挟まれた平坦地にあったが、営巣木の一部は沢沿いの急斜面にもあった。コロニーの東側は約100mで林縁に達し、その先は耕作地で開けている。それ以外の方角には針広混交林の森が続く。

1992年12月9、10、17日に行った調査では、ミズナラ9本、アサダ8本、カツラ7本、ハルニレ6本、キタコブシ5本、トドマツ3本、ヤチダモ2本、ホオノキ2本、ウダイカンバ、オオバボダイジュ、シナノキ、アオダモ、ヤマモミジ、オヒョウ各1本の14種48本に、合計685巣を確認している。当時の営巣面積は約14,000m2である。また、1993年12月4、6、9日に行った調査では、89本の営巣木に683巣を確認している。さらに、1990年3月21日と25日、および4月2日に松田あおい氏が行った調査では、ミズナラ10本、ハルニレ8本、カツラ5本、キタコブシ3本、シナノキ2本、ベニイタヤ、シウリザクラ、アサダ、ホウノキ、トドマツ、不明各1本の10種33本に、使用巣266、古巣96を確認している。また、北方鳥類研究所の斉藤春雄氏らが1970年の繁殖期に行った調査では、カツラ15本、アサダ13本、ミズナラ9本、イタヤカエデ6本、シナノキ5本、ハルニレ3本、クリ2本、ハリギリ、ホオノキ、サワシバ、シラカンバ、トドマツ、不明各1本の12種59本に、使用巣212、古巣24を確認している(斉藤 1970)。さらに、同氏らが1971年の繁殖期に行った調査では、カツラ13本、アサダ10本、ミズナラ8本、シナノキ5本、ハルニレ、イタヤカエデ、クリ各2本、サワシバ、シラカンバ、不明各1本の9種46本に、使用巣197と古巣23を確認している(斉藤 1971)。また、「日本鳥類大図鑑Ⅲ」(清棲 1978)には、1963年の調査で300巣が確認されたと記されている。さらに、1942年5月25日に札幌栄養短大の井上元則氏が行った調査では、ヤチダモ17本、ハルニレ13本、シナノキ7本、ハリギリ4本、ミズナラ2本、オヒョウ1本、トドマツ1本の7種45本に、合計99巣が確認されている(井上 1970)。

コロニーの位置(大きな地図で見る

このコロニーが成立した年は不明であるが、北方鳥類研究所の西川半次郎氏が地元の長谷川長太郎氏から聴取したところによると、少なくとも1914年頃には既に生息していたという(斉藤 1970)。なお、当時のコロニーは、放棄されたコロニーから耕地を隔てて約1km北東の森にあったということである。斉藤氏の調査によると、その後、1945年にこの林が伐採されたため、その年以降、約800m南にある森に移ったという。移動先として選ばれた場所は放棄されたコロニーと地続きになっている森で、その後、コロニーは次第に西へ移動したという。また、同氏はこのコロニーの由来について、約10km南東の千歳川コロニーから移動があった可能性を指摘している。

このコロニーは1997年4月下旬に放棄されている。北海道大学の池田透氏は、放棄の原因についてアライグマの捕食の可能性を指摘している(池田透 1999)。ただし、アライグマについては営巣木につけられた爪痕などの状況証拠はあるものの、捕食の現場が目撃されたわけではない。当コロニーの消滅には、アライグマだけでなく人による攪乱や周辺環境の変化等が影響した可能性もあり、現時点でアライグマに全ての責任があると断定するのは危険であろう。ただ、もし本当にアライグマによる捕食があったとするなら、それは様々な要因の中でも決定的なものであった可能性は高いと思われる。なお、北海道では放棄後に対策協議会を設置し、原因の究明を図るとともに、デコイを置いたり声のテープを流すなどアオサギの呼び戻し策を検討したが、その後、野幌から移動したと思われるアオサギによって別のコロニーがつくられたことから、特別な策は講じず当面は事態の成り行きを見守ることになった。

なお、当コロニーが放棄された1997年には、平岡、江別、篠路など野幌の周辺で新たなコロニーが形成されており、これらは野幌を放棄したアオサギによってつくられた可能性が高い。また、この年には苫小牧の植苗コロニーの巣数が異常に増加しているが、これは野幌を放棄したアオサギが合流したとものと思われる。さらに、宝池、志文、長都、篠津、ウトナイ湖畔、沼の端の各コロニーについても、直接ないし間接的に野幌放棄の影響を受けてコロニーがつくられた可能性がある。

当コロニーは札幌に近いこともあり、昔から「サギの森」と呼ばれ人々に親しまれてきた。なお、当コロニーを含めた周辺約62haは1969年に特別鳥獣保護区に指定されている。

参考文献
池田透 1999 野幌森林公園におけるアライグマ問題について 森林保護 272: 28-29.
井上元則 1970 野幌のアオサギ発見記 野鳥だより -北海道- 第3号 3-4.
斉藤春雄 1970 野幌自然休養林におけるアオサギ調査報告書 札幌営林局 53 pp.
斉藤春雄 1971 野幌自然休養林におけるアオサギ調査報告書 札幌営林局 30 pp.
清棲幸保 1978 日本鳥類大図鑑Ⅲ 講談社

コロニーの位置(大きな地図で見る