アオサギの有害駆除に係る問題点に関する報告

Report on the Problems of Grey Heron Control in Japan

4.(2) 防除対策に係る問題

指針では、有害鳥獣捕獲は「原則として被害防除対策によっても被害等が防止できないと認められるときに行うもの」と規定されている。しかしながら、アンケート結果に示されたように、都道府県においては防除策の十分性を評価するしくみすら無いところが多かった。また、当事案については一部の市町村にも個別に問い合わせたが、十分な防除を行わないまま駆除を実施しているケースが少なくなかった。本項では、魚の食害、稲の踏みつけ被害、コロニー周辺での生活環境被害のそれぞれについて、防除対策の現状を検証し、有効な防除法についての検討を加える。

ⅰ. 漁業被害(魚の食害)

アオサギによる魚の食害は養魚場での被害と自然河川での被害に分けられる。このうち養魚場ではネットを張って防除しているケースが多く見られた。ネットによる防除は、アオサギを水面から物理的に遮断するという点で防除手段としてはもっとも確実な方法といえるが、実際は種々の事情からネットで水面を完全に覆うのは難しい場合も多い。そこで、ネットが利用できなかったりネットを張っても限定的な効果しか得られない場合には他の防除法の検討が必要になる。

今回、聞き取りを行った自治体では、防鳥テープ(北海道)や音波(地震波のようなもの)を発生させる装置(長野県A市)などが防除法として試されていた。ただし、防鳥テープには効果が見られず、音波発生装置はゴイサギには効果があるがアオサギへの効果はそれほどでもないとのことであった。なお、今回は防除対策については一部の自治体にしか尋ねていないため、被害のあるところではこれら以外にもさまざまな方法が試されているものと思われる。たとえば、風車やスプリンクラー、案山子などが考えられるが、いずれも最初のうちは忌避効果があるものの時間とともに効き目が薄れるのが普通である。そのため、忌避効果を持続させるためには、複数の方法を組み合わせたり装置の設置場所を変えるなど、アオサギを慣れさせないための工夫が必要となる。

風車やスプリンクラー、あるいはライトなどの装置は、常時作動させておくのではなく、アオサギが飛来したときのみ動作するようにすれば忌避効果を長く保つことができる。たとえば、スプリンクラーではこうした用途に特化したセンサー付きの製品が1体1万円ほどで販売されており、小規模の養魚施設などではかなり有効に活用できるものと思われる。また、アオサギの飛来時のみ対応するという点では犬の放し飼いも一定の効果が期待できる。

なお、養魚場の場合は、飛来するアオサギが必ずしも施設内の魚を狙っているわけではないことに留意すべきである。養魚場からは餌を多く含む水が付近の川に流れ込むため、施設周辺には自ずと魚が集まる。アオサギはこうした魚を狙い、施設内の魚にはそれほど被害を与えていない場合がある。実際、今回の調査でも、和歌山県B市の担当者から、同市の養魚場で同様の現象が見られるとの情報を得た。施設への飛来を減らしたいのであれば、養魚に伴う影響を施設外に拡散させないことがまずは必要である。

一方、自然河川で被害がある場合については、被害発生箇所が広く特定するのが難しい等の理由から、防除対策をとることなく駆除申請が行われることが多い。しかし、広範囲にアオサギが飛来する場合でも、堰や魚道、樋門流路、浅瀬など、他にくらべて餌場になりやすい場所を特定し、それらのポイントを集中的に防御することで相応の被害軽減は可能である。実際、今回聞き取りを行った漁協では、アオサギの採餌場となっている堰に、毎年、防鳥ネット(80 x 20 m)を設置することで一定の防除効果を上げていた。今回の聞き取りでは、自然河川では防除のしようがないとの声を多く聞いたが、可能な防除措置が十分とられていないケースも少なくないものと思われる。駆除申請を審査するにあたっては、防除で対応できる箇所が見過ごされていないか必ず確認し、防除範囲が広いというだけの理由で無条件に防除を免除することは厳に避けるべきである。

ⅱ. 農業被害(稲の踏みつけ被害)

稲の踏みつけ被害は、田植え直後の水田にアオサギが餌(ドジョウ、オタマジャクシなど)を求めて飛来することにより生じる。踏みつけられ泥に埋もれた苗は起き上がらず、結果的にその分だけ収量が減ることになる。ただし、踏みつけられても後で起き上がったり、補植により対応できる場合もあり、被害があっても最終的な収量には影響しないことも多い。一方、「田圃一枚を植え替えるほどひどい時がある(ただし、アオサギを含むサギ類全体での被害)」(福岡県C市)、「農業を辞めてしまおうかという人も出る」(山形県)など、深刻な被害が訴えられるケースもある。このように被害のていどはさまざまであるが、いずれの場合も被害が広範囲に及ぶため防除策がほとんど講じられていないのが実情である。

ところで、一般に水田の被害のていどはアオサギの飛来数にほぼ比例するが、飛来数にもっとも大きく影響するのはコロニーからの距離である。コロニー直近の水田は集中して被害を被ることになり、とくに大規模なコロニーが水田に隣接している場合は被害が大きくなりやすい。このため、稲の踏みつけ被害を大きくしないためには、水田の近くにコロニーをつくらせないことが何より重要となる。たとえば、既存コロニーが水田から離れた場所にあり、人とのトラブルがないような場合は、当該コロニーの徹底した保護に努め、不用意にコロニーを移動分散させないことを最優先すべきである。一方、すでに水田に隣接した場所にコロニーがある場合は、コロニーの立地そのものが被害の主原因となるため、被害が許容できないほど深刻な場合はコロニーの人為的な移設も検討せざるを得ない。なお、コロニーの移設については本項ⅳで詳述する。

ⅲ. 生活環境被害

生活環境被害は、コロニーと民家が隣接している場合に、主として鳴き声とフンが問題視されるものである。これらの被害に対しては、花火等を使った単純な追い払い(新潟県D市、福井県E市、熊本県F市)のほか、営巣木の枝打ち(富山県G市、同H市、福井県E市)、営巣林の間伐(宮城県)、障害物による営巣妨害(長野県A市)(注1)などの対策が講じられている。

こうした防除法はコロニーが小規模の場合など特定の条件下では成果が得られやすい。しかし、コロニーによっては単一の防除法を少々試すていどでは効果がない場合もある。たとえば新潟県D市では、花火での追い払いを試みたものの巣の位置が高すぎて上手くゆかず、翌年は追い払いを諦めコロニーでの駆除を実施している。コロニーでの駆除の問題点については4.(9)に詳述するが、こうしたケースで安易に駆除を選択するのは拙速というほかない。別の防除法を試したり努力量を増やすことで追い払いを継続すべきであり、それでも効果がない場合は、次に述べるコロニーの移設を検討すべきであろう。

ⅳ. コロニーの移設

アオサギの被害は防除によってかなりの程度まで軽減できるが、さまざまな防除法を試みてもなお被害が許容範囲内に収まらない場合もある。そうした場合の対策のひとつとして、ここではコロニーの移設を取り上げる。なお、以下に紹介する移設事例は既知の報告であり、今回の調査とは直接には関係がない。

コロニーの移設は、コロニーの存在そのものが問題となる生活環境被害への対応でとくに有効である。一方、稲や魚に被害がある場合でも、コロニーの立地が被害の程度に大きく影響する状況では効果的な被害軽減策となり得る。

移設を行う上でもっとも重要なのは、既存コロニーからの追い出しと代替営巣地の整備をセットで行うことである。代替営巣地の用意がないまま既存コロニーから追い出すと、別の場所に問題が移るだけで根本的な問題の解決にはならない。そればかりか、追い出されたアオサギが複数の地域に新たなコロニーをつくり、結果として人との軋轢をさらに高めかねない。また、アオサギの広域コロニー群構造(当該概念については「5. アオサギの管理指針」参照)の安定性を著しく損なう恐れもあり保護上の問題も大きい。このように、コロニーの移設は決して安易な考えで行ってはならないが、周到な準備のもとに慎重に実行すれば根本的な被害軽減策となり得るものである。

追い出しを行う時期は、アオサギがコロニーに飛来したのち産卵活動に入るまでの間に設定する必要がある。これは親鳥がいったん産卵すると少々の撹乱では巣を離れにくくなることも理由のひとつであるが、それ以前に、倫理面、法律面での問題が大きい(4.(9)参照)。このため、産卵後の追い出しは危急かつ甚大な人的被害がある場合以外は行うべきではない。

追い出しにあたっては人がコロニーに入るだけでもかなりの効果があるが、補助的に種々の小道具が用いられる場合も多い。たとえば、新潟県長岡市のサギ類の混合コロニーでは目玉風船や旗などを利用した撹乱が試みられている(注2)。しかし、こうした静的な防除法だけではやがて慣れられて効果が薄れるのが普通であり、同市の場合もアオサギは1週間後にコロニーに戻り、ゴイサギにはまったく効果が無かったという(注3)。同市では最終的にほとんどのゴイサギをコロニーから追い出すことに成功している(アオサギは少数のため当初から追い出す計画はなかった)が、これは目玉風船などよりも人が執拗にコロニーに入り撹乱し続けたことの効果が大きかったものと考えられる。結局、どのような手法を用いたところで一回で効果を上げるのは難しく、根気よく作業を繰り返すことが必要となる。

コロニーからの追い出しが可能なのはコロニーが小規模な場合に限らない。たとえば、上述の長岡市ではアオサギ500羽とゴイサギ4,000羽、神奈川県横須賀市ではアオサギ百数十羽(注4)をコロニーから追い出すことに成功している。このように、たとえ大規模なコロニーであっても腰を据えてかかれば追い出しは可能である。

追い出しの方法については決定的に有効なものはなく、各コロニーの規模や立地環境に応じて適宜工夫する必要がある。たとえば、横須賀市のケースではラジコンヘリが用いられているが、この方法はコロニーを側面から視認できる場合(山の斜面など)はとくに有効である。なお、ラジコンヘリは最近出回っているマルチコプターで十分に代替可能であり、むしろこのほうが汎用性が高い。マルチコプターはラジコンヘリ類似の機能をもつだけでなく、操縦が容易な上に数万円程度で入手できることから、コロニーを人為的に撹乱する必要がある場合は極めて有用と思われる。

以上のような方法でコロニーからの追い出しは可能であるが、追い出す以上は追い出されたアオサギの受け皿となる代替営巣地を用意しなければならない。代替営巣地は、人とのトラブルが生じる恐れがないことはもちろん、アオサギが安心して営巣できる環境を備えている必要がある。また、既存コロニーの周辺環境とできるだけ類似していることが望ましい。その際、移設先と移設元は必ずしも近くである必要はなく、また新たなコロニーへのアオサギの誘導にとくに大がかりな作業が必要とされるわけでもない。たとえば北海道北見市では、約2キロ離れた樹林にコロニーを誘致しているが、その際に行った作業は、冬の間にもとのコロニーから3巣を取り外し、移設先の樹林に取り付けるというだけの簡単なものであった(注5)

なお、移設にあたって適当な樹林が無い場合は人工的な営巣施設で代替する方法もある。たとえば、アメリカではオオアオサギ(アオサギの近縁種)を対象に人口営巣木を設置する試みが数多く行われ成果を上げている(注6)。また、国内ではアオサギとよく似た繁殖生態をもつカワウで人工巣台への誘導が成功している(注7)。アオサギの場合は巣台ではなく営巣木型のほうが誘因効果は高いと考えられるが、アメリカではシラサギ類を人工巣台に誘致した例(注8)もあることから、アオサギの場合も巣台への誘致は不可能ではないと思われる。

以上のように、アオサギの被害は根気と工夫次第でかなりの程度まで軽減可能である。駆除申請を受けるにあたっては、十分な防除策がとられていることを確認するのはもちろんのこと、行政のほうからもさまざまな防除法を提案し、安易に駆除に頼ることなく可能な限り防除で対応するという方針を徹底して理解してもらうことが重要である。

もくじ

・ はじめに
1. 調査の概要
2. アオサギの置かれている現状
3. アオサギ駆除の現状
4. アオサギの駆除に係る問題と問題解決のための提案
5. アオサギの管理指針
6. 都道府県への提言
・ 図表
・ おわりに

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