2.(2) 国内の生息数と分布状況
国内のアオサギの生息数についてはほとんど何も分かっていない。ただし、いくつかの地域(7道府県)では都道府県かそれよりも小規模の地域レベルで調査がなされており(注1)、個別にあるていど正確な生息数が見積もられている。当研究会ではそれらの調査報告をもとに、調査されていない地域の生息数を推定し、極めて大雑把な見積もりながら全国のアオサギの生息数を約43,000羽(±20,000羽)と推定した。
一方、生息数の推移についてはさらに乏しい知見しか得られていない。全国的な生息数の変化についてはまったく情報がないが、都道府県レベルでは少数の報告があり、たとえば北海道では1960年から2000年にかけて生息数が約4.5倍になったと推測されている。また、近年の調査に限れば、増加傾向が見られた地域(茨城県、2002-2011年)がある一方、必ずしも顕著な変化が見られない地域(福井県、2005-2012年)もあり、その傾向は一定していない。
また、生息分布については、環境省の自然環境保全基礎調査で繁殖分布調査が過去3回行われており(注2)、以前にくらべ分布域が広がったことが明らかになっている(注3)。しかし、本報告書が問題としているここ十年あまりの期間については生息分布の変遷に関する情報はほとんど無い。
(注1)国内で比較的最近行われたアオサギの生息数調査の事例を以下に示す。
北海道:Matsunaga K. et al. 2000. Changing trends in distribution and status of Grey Heron colonies in Hokkaido, Japan, 1960-1999. Japanese Journal of Ornithology. 49: 9-16. および、北海道アオサギ研究会. 2005. 北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告. 142pp.
長野県:長野県環境保全研究所 「カワウ及びサギ類等魚食性鳥類の県内における生息状況の調査研究」および、「アオサギの集団営巣地29カ所 環境保全研が初の調査」(信濃毎日新聞 2010年5月12日付)
茨城県:Mashiko M. & Toquenaga Y. 2013. Increasing variation in population size and species composition ratio in mixed-species heron colonies in Japan. FORKTAIL. 29 (2013): 71–77.
福井県: 福井県自然保護センター. 2008. 福井県におけるサギ類コロニーの分布と種構成 − 渡り鳥保全調査事業2005, 2006年度 −. Ciconia(福井県自然保護センター研究報告). 13: 11-19.(2008年以降は日本野鳥の会福井県サギ類調査グループによって同様の調査が継続され、同誌に毎年、報告が掲載されている)
滋賀県:藤岡正博ほか. 2001. サギ類コロニーの分布と種構成 – 茨城県と滋賀県の比較. 日本鳥学会2001年度大会講演要旨.
京都府:佐々木凡子. 2001. 京都府におけるサギ類の集団繁殖地の分布と保護. Strix. 19: 149-160.
大阪府:大阪市立自然史博物館 「大阪府下のサギの集団繁殖地」
なお、以下の報告では生息数は調査されていないがコロニーの分布状況が示されている。
兵庫県:新田朋子・奥野俊博. 2008. 兵庫県下のカワウ・サギ類のコロニーの現状について. 共生のひろば. 3号. 101-104.
(注2)鳥類の繁殖地の分布が調査されたのは、第2回(1978年)、第4回(1989-1992年)、第6回(1997-2002年)である。
(注3)繁殖地が確認されたメッシュ(20kmメッシュ)の数で比較すると、第2回から第4回にかけては15メッシュから113メッシュへと大幅に増えたものの、第4回から第6回にかけては113メッシュから114メッシュとほとんど変わっていない。