アオサギの駆除に関する要望に係る補足意見を国に提出
当研究会では2014年12月、国および都道府県に対し、アオサギの駆除実態に関する調査報告書および要望書を提出し、国については同要望に対する回答を求めてまいりましたが、2016年1月15日、環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室からメールにて下記の回答をいただきました。
平成27年12月11日付けでいただいた標記の再要望書について、下記の通り回答いたします。
鳥獣の保護・管理においては、地域の実情や種の特性などに応じて、被害の防除・個体数の管理・生息環境の整備を行う必要があります。このことを踏まえ、本基本指針においては、有害鳥獣捕獲のための捕獲許可は原則として防除対策をしても被害等が防止できないと認められるときに行うこととしています。ご指摘の「特に慎重に取り扱う」としている種は、被害等が生じることがまれである、ないしは、従来の許可実績がごく僅少である種を指しているに過ぎず、それ以外の種を無秩序に駆除することを容認する趣旨ではありません。
また、アオサギの繁殖期間中の捕獲を含め、個別の種への対応については、種の特性、生息状況、被害状況及び地域の実情等に応じて、適切に実施されるべきものと考えます。
さらに、捕獲実績に係る情報管理システムは、コスト・労力の観点も踏まえ、地域において、計画的・科学的な管理に必要な情報を収集していくことが必要と考えており、ご指摘の点も今後の参考とさせていただきます。
当研究会ではこの回答に対し、新たに補足意見をまとめ、2016年1月28日、以下の意見書を国に提出しました。
アオサギの有害鳥獣駆除業務に係る要望書に対する国からの回答に対する補足意見
このたびは「アオサギの有害鳥獣駆除における許認可業務の適正化に関する要望」にご回答いただきありがとうございます。ご回答の内容についてはもっともであり当研究会としても書かれていることに異存はありません。しかし、先の報告書に示したように駆除の現場においてはそのもっともなことがまったく出来ていなのが実情であり、だからこそ、より厳しく取り組んでもらいたいとの思いで先の要望に至ったわけです。ご回答を拝見する限り、3つの要望事項のうち、1番目と2番目については残念ながらこちらの趣旨が十分に伝わったとは思われませんでした。今回、同様の要望を繰り返すことはいたしませんが、説明が不足していたと思われる点について以下に意見を書き加えますので、報告書と併せて今後の参考にしていただければと思います。なお、別紙に当研究会からの要望事項と1月15日付けのメールでいただいたご回答をまとめました。ご参照ください。
まず、1番目の「特に慎重に取り扱う」種(指針4-(2)-①で示された区分)への変更についてです。ご回答は「特に慎重に取り扱う」種以外の種についても無秩序な駆除を容認しているわけではないというものでした。これは当然のことですが、要望に対する回答にはなっていません。「特に慎重に取り扱う」種から外れた種は、予察捕獲が可能になるなど、無秩序とまではいかないまでも駆除を許可する際の敷居が格段に低くなります。このことが結果的にアオサギの不必要な駆除を助長する要因のひとつになっているのです。駆除の現場は国が思い描くようには動いていません。ましてアオサギの場合、捕獲の許認可業務は都道府県より市町村で行われることのほうが現在では多くなっているような状況です。市町村の担当者の中には野生動物の管理についてほとんど何の知識もない人も多く、極めて杜撰な管理しかできていないのが実情なのです。
なお、この要望には指針そのものへの批判も込めてます。指針の区分は被害の生じる頻度と従来の許可実績の2点のみに基づくもので、鳥獣の生態等については考慮されていません。区分を示した直後の段落で「保護の必要性が高い種または地域個体群」についても特に慎重に取り扱うようにとの補足がありますが、前段で具体的な種名を挙げて明確にカテゴリー分けをしている以上、よほど自明な場合を除き、この補足が考慮されることはまずないと考えます。生きものの特性がこうした二分法で問題なく分けられるほど単純でないのは言うまでもありません。そして、このような恣意的かつ安易な分類でもっとも不利益を被りやすいのが分類の境界線上にいる種なのです。その中にアオサギが含まれており、アオサギの駆除に際し実際に多くの問題が生じているということで先の要望を行ったわけです。
当研究会は、有害鳥獣の管理にあたっては基本的に個々の種ごとに独自の管理計画が定められるべきとの考えをもっています。もちろん、専門的知見や労力の不足からそれが現実的でないのは承知していますし、指針に示された区分もそうした状況の中でとられた次善策であると理解しています。しかし、このような単純な二分法が最適な方法であるとはまったく思えません。是が非でもカテゴリーを分けたいのであれば、生態や行動特性についても十分に考慮し、各カテゴリー間でそれら特性の連続性が保てるよう必要十分な数の分類区分を設けるべきです。それができないのであれば、一切の区分を設けず、一律に慎重な取り扱いを求めるほうがよほど弊害が少ないと考えます。
次に繁殖期間中の駆除についてです。ご回答では「適切に実施されるべきものと考えます」と答えられていますが、適切に実施されていないからこそ厳格な対応を求めているのです。繁殖期の駆除については国として明確な対応を示したものがなく、都道府県、市町村が独自にその可否を判断しているというのが実情です。このことが結果として杜撰な管理の一因になっているのです。この問題を敢えて国に問うたのは、この問題の根底に生きものに対するモラルの問題があるからです。これは国民的なコンセンサスが必要な事柄であり、都道府県、市町村が独自に判断できるレベルを超えています。現在、野生鳥獣、とくに有害鳥獣に関するモラルの問題を持ち出すことはタブー視される嫌いがありますが、そこに国が法や指針で明確に踏み込んでいかない限り、都道府県および市町村レベルでの判断は中途半端なまま放置され、不当な駆除が行われる現状を変えていくのは難しいと考えます。
現場で何が起こっているのか何が問題なのかについては報告書に具体例を挙げて示したとおりです。繰り返しになりますが、現場での駆除の実態は国が法や指針をつくる際に想定しているものからは大きくかけ離れています。国がこのことを自覚し改善のための方策を真剣に考えない限り、どれほど素晴らしい法や指針をつくったところで何の役にも立たないでしょう。
冒頭で述べたとおり、当研究会の意見は報告書で十分に言い尽くしていますので、今回は再度の要望という形はとらず、先の要望の補足意見という形に留めました。したがって、これに対するご返答は必要ありません。今回の意見および報告書の内容を十分にご検討いただき、駆除に関する問題点の改善に役立てていただけるよう、よろしくお願い申し上げる次第です。
以下、別紙
1. 「特に慎重に取り扱う」べき種への変更
要望 | 平成19年1月に告示された鳥獣保護法の指針以降、駆除を目的とした捕獲を許可する際の「特に慎重に取り扱う」べき対象種からアオサギが除外されている。この措置は計画性のない安易な駆除を助長し、結果としてアオサギの被害を拡大している可能性がある。アオサギは明確な個体群構造を示す種であることから、駆除による影響が個体群レベルで顕在化しやすく、個体群構造の不安定化がさらなる被害をもたらす場合が多い。このため、アオサギの鳥獣管理は個体群構造を理解した上で周到な計画に基づいて行うことが不可欠である(詳細は報告書4.(11)参照)。以上の理由により、アオサギを「特に慎重に取り扱う」べき種へ変更することを求める。 |
回答 | 鳥獣の保護・管理においては、地域の実情や種の特性などに応じて、被害の防除・個体数の管理・生息環境の整備を行う必要があります。このことを踏まえ、本基本指針においては、有害鳥獣捕獲のための捕獲許可は原則として防除対策をしても被害等が防止できないと認められるときに行うこととしています。ご指摘の「特に慎重に取り扱う」としている種は、被害等が生じることがまれである、ないしは、従来の許可実績がごく僅少である種を指しているに過ぎず、それ以外の種を無秩序に駆除することを容認する趣旨ではありません。 |
2. 繁殖期間中の駆除の禁止
要望 | アオサギの繁殖期間中の駆除(コロニーでの駆除を含む)は、法律、倫理の面で問題であるばかりでなく、科学的な鳥獣管理を事実上不可能にするものである(詳細は報告書4.(9)および(10)参照)。このため、同期間中に生じる被害については、危急に対応が必要な甚大な人的被害がある場合を除き、防除、追い払い等、捕殺以外の方法で対処し、殺傷を伴う行為は全面的に禁止すべきである。このことを法ないし指針に明示することを求める。 |
回答 | アオサギの繁殖期間中の捕獲を含め、個別の種への対応については、種の特性、生息状況、被害状況及び地域の実情等に応じて、適切に実施されるべきものと考えます。 |
3. 捕獲実績に係る情報管理システムの整備
要望 | 捕獲実績は、駆除の効果を検証し、後の管理計画に活すことで初めて意味をもつものである。ところが、国は都道府県ごとの駆除数のデータを収集しているのみで、過去のデータが十分に活用できる状況になっていない。記録の保存については、駆除数だけでなく駆除に係るすべての情報を対象とすべきであり、また、それら情報に個々の自治体が常時アクセスできるよう、全国のデータをクラウド上で一元管理すべきである。以上の点を考慮した情報管理システムの整備を求める。 |
回答 | 捕獲実績に係る情報管理システムは、コスト・労力の観点も踏まえ、地域において、計画的・科学的な管理に必要な情報を収集していくことが必要と考えており、ご指摘の点も今後の参考とさせていただきます。 |
【追記】ひとつめの要望で、報告書4.(11)とあるのは報告書5.の間違いでした。訂正してお詫びします。