北海道アオサギ研究会

アオサギ駆除業務適正化に関する要望書の提出

2012年3月31日、全国の都道府県に宛て、『アオサギの有害鳥獣駆除における許認可業務の適正化と審査の厳格化に関する要望書』を送付しました。この要望は、近年の全国的なアオサギの有害駆除数の増加傾向に対する緊急処置として行ったものです。今後、要望書添付のアンケート等により、行政のアオサギ駆除に係る許認可業務の実態を把握し、報告書をまとめた上であらためて効果のある提言を行っていく予定です。

要望書の内容は以下のとおりです。


アオサギの有害鳥獣駆除における許認可業務の適正化と審査の厳格化に関する要望書

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

当研究会は、北海道を拠点に人とアオサギが共生できる社会づくりを目標に活動しています。近年、全国的にアオサギの有害駆除数が急増している状況を見るにつけ、アオサギの生命の尊厳が蔑ろにされている現状を深く憂慮しています。全国のアオサギの駆除数は、十数年前までは年間数十羽程度で推移していました。ところが、平成12年頃から顕著に増えはじめ、平成21年度には3,000羽を超えるまでに増加しています(右図参照。元データは環境省の公表値)。

近年、アオサギが全国的に増える傾向にあるのは間違いなさそうですが、駆除数のこれほどの増加はこの間のアオサギの個体数増加分だけで説明できるものではありません。また、アオサギの営巣地が都市域に進出したことで人とのトラブルが増加している可能性も考えられますが、これについては何十年も前から徐々に進行してきた現象であり、ここ十数年でとくに大きな変化があったわけではありません。

一方、アオサギの保護管理に係る法律面においては、平成11年度の地方自治法の改正で「条例による事務処理の特例」が盛り込まれ、この規定が鳥獣保護法にも適用されました。この一連の法改正により、アオサギ駆除における市町村への権限委譲がおおいに進んだことは想像に難くありません。

以上のことから、近年の駆除数の劇的な増加はアオサギの生息状況の変化に伴うものというよりは、むしろ有害鳥獣駆除に関する制度ないしその運用に問題があるのではないかと危惧しているところです。また、平成20年度には鳥獣被害防止特措法が施行され、アオサギの保護管理に関わるシステムがさらに危ういものになりかねない状況であると懸念しています。

当研究会ではこうした状況をふまえ、全国の都道府県に対しアオサギの有害鳥獣駆除における許認可業務のいっそうの適正化と審査の厳格化を呼びかけることが必要と考えるに至りました。なお、都道府県別に見ると、他とくらべて顕著に駆除数の多い県がある一方、駆除実績の全く無い県もあり、その実態は様々です(右図参照。元データは環境省の公表値)。駆除数の多い県については制度の運用について早急な点検を強く望むところですが、アオサギの生息状況が広範囲で常に変化するものであることを考慮し、今回は駆除数の少ない都道府県についても全国一律で要望を行うこととしました。つきましては、以下の内容をご検討いただきたく、ご高配のほどよろしくお願い申し上げます。

1. アオサギは、国内さらには海外へと広範囲に移動する鳥であり、日常の移動ですら行動半径30キロにも及びます。また、繁殖地(ひとつの個体群で構成)は独立して存在しているのではなく、地理的に繋がりのある各繁殖個体群が独自の役割を持ちつつ、相互に連携するメタ個体群構造がつくられているとされています。このため、個体群の管理を行うには生息状況の的確な把握と広域での管理計画が欠かせません。それゆえ、アオサギ駆除に関しては許認可権限の市町村への委譲は極力避けるべきだと考えます。とくに特定の市町村で大規模な駆除が行われている場合については早急な見直しを求めます。
2. 都道府県が定める鳥獣保護事業計画によっては、「捕獲の許可に当たってとくに慎重に取り扱うべき種」からアオサギが除外されている場合があります。これも (1) と同様の理由で適切な判断とはみなしがたく再考を願います。また、慎重さを欠いた捕獲許可によりその場しのぎの安易な駆除を行うのでは、アオサギによる被害を減らせないばかりでなく、個体群の分散や都市域へのコロニーの移動などにより、人との間にさらに深刻なトラブルを生じる恐れがあります。このことについて関係者各位がいま一度認識を徹底されるようお願いします。
3. 都道府県から許認可業務を委譲されている市町村の中には、鳥獣保護法を十分に理解せず、法に抵触する方法で駆除を行っているケースが見受けられます。鳥獣保護法における許認可権限を市町村に委ねる場合、および鳥獣被害防止特措法における市町村策定の被害防止計画に同意する場合には、法の解釈に関してとくに厳正な指導をお願いします。
4. 経済的被害により駆除が申請される場合、被害額が過大に評価されるケースがよくあります。客観的、科学的なデータに基づかない駆除申請を安易に許可することのないよう、より一層厳格な審査をお願いします。
5. 内水面漁業や農業に携わる個人や業者から、何年にもわたり同じ駆除申請が出されることがあります。このようなケースでは駆除の効果が期待できない場合がほとんどです。アオサギは一部が駆除されても、餌があれば別の個体が飛来するため、地域のアオサギ個体群を絶滅させないかぎり被害は続きます。このような場合は、被害を軽減するための別の方法や補償等を検討すべきと考えます。

当研究会からの要望については以上です。何卒ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

なお、当研究会では、今回のアオサギ駆除数激増の事態を受け、本要望を行うと同時に、全国のアオサギ駆除の実態を把握した上で、アオサギの生態学的および保全生物学的見地から「アオサギと人との共存に向けた提言(仮題)」として報告書にまとめたいと考えております。同報告書は遅くとも本年12月末までには全国の都道府県および関係機関に送付の予定です。また、報告書の内容については当研究会のホームページ(https://greyheron.org/)でも掲載の予定です。

つきましては、ご多忙のところ恐縮ではございますが、貴都道府県における以下の資料をお送りいただきたくお願い申し上げます。

1. 鳥獣保護法によるアオサギを対象とした駆除(市町村委譲分も含む)の内訳が示された資料
2. 鳥獣被害防止特措法によるアオサギを対象とした駆除計画を策定した市町村の鳥獣被害防止計画
3. 2の鳥獣被害防止計画の結果が示された資料

1の鳥獣保護法による駆除分については、可能であれば駆除申請ごとの詳細をご提供いただければと思います。公開が難しい場合は、市町村別の駆除数、被害地域、被害の内容、推定被害金額等、可能な範囲でできるだけ詳細な内容の資料をお願いします。資料の公開に関しては都道府県によって規則も方法も様々だと思いますので、他に適当な資料の入手、閲覧方法等がありましたらご教示ください。なお、平成23年度分については集計途上と思われますので、いずれの資料も平成22年度分で構いません。
 
次に、上記報告書作成のための基礎資料収集の目的でアンケートを用意しました。こちらについても、どうかご協力いただけるようお願いします。なお、アンケートの回答は独自様式を用いていただいて構いません。

以上の件につき、誠に恐縮ではございますが、5月末頃までを目処にご対応いただけると有り難く存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

アオサギを対象とした有害鳥獣駆除に関するアンケート

1. アオサギの駆除に関し、鳥獣保護法における許認可業務について、市町村への委譲状況は次のうちどれに当てはまりますか?

□ 全ての市町村に委譲   □ 一部の市町村に委譲   □ 委譲していない
※一部の市町村に委譲と答えられた場合、市町村ごとに異なる対応をされている理由をお書きください。

2. アオサギの生息状況を把握するための調査(モニタリング)を行っていますか?

□ 行っている    □ 行っていない
※行っていると答えられた場合、個体数や繁殖地の位置など詳細情報を示した資料をお送りいただければと思います。
※行っていないと答えられた場合、推定値(およびその根拠)があれば以下に記入してください。
繁殖期の推定つがい数 _________ 羽  冬季間の推定個体数 __________ 羽
推定繁殖地数 _________ 箇所
推定した根拠  □ あり (根拠となる資料名等:           )    □ なし

3. アオサギの保護管理を個体群レベルで行う上で、科学的知見に基づく具体的な施策がありますか?

□ ある    □ ない
※あると答えられた場合、その具体的内容についてお書きください。

4. アオサギの駆除申請を審査する際に、申請者がそれまでに試みた防除策に対して評価するしくみ、および評価基準はありますか?

□ ある    □ ない
※あると答えられた場合、評価基準について具体的にお書きください。

5. 農林水産関係の被害に係るアオサギの駆除申請に際し、申請者に被害額の提示を求めていますか?

□ 求めている    □ 求めていない
※求めていると答えられた場合、提示される被害額は誰が査定していますか?
□ 申請者    □ 行政担当者    □ その他(     )
※上で選択された査定者それぞれについて、被害額の科学的、客観的な査定方法の有無をお書きください。また、科学的、客観的な査定方法がある場合は、その内容について具体的にお書きください。

6. 実施されたアオサギの駆除について、その効果を評価するしくみはありますか?

□ ある    □ ない
※あると答えられた場合、その具体的内容をお書きください。

7. 人とアオサギの共生について、理念やビジョンがありますか? 

□ ある    □ ない
※あると答えられた場合、その具体的内容についてお書きください。

8. アオサギの駆除や保護政策、および今回の要望やアンケートについてご意見がありましたらお聞かせください。

以上で質問は終わりです。ご回答いただいた内容は報告書の中で有意義に活用させていただきます。このたびは御協力ありがとうございました。