結果
Ⅰ コロニーの数および分布
これまでに道内で確認されたコロニーは合計122ヶ所で、このうち2001年以降の調査期間中に79ヶ所で営巣を確認した。しかし、そのうちの2ヶ所はこれまでに消滅し、1ヶ所は消滅している可能性が高いとみなされた。また、これ以外の43ヶ所のうち34ヶ所はすでに消滅しており、9ヶ所は現状を確認することができなかった。
北海道におけるコロニーの分布を図1に示す。コロニーは北海道全域に広く分布していたが、大雪、日高、および南西部の山間部にはほとんど分布していなかった。また、多くのコロニーは海岸の近くや河川沿い、あるいは湖沼周辺に分布していた。とくに、石狩川、天塩川、十勝川などの大河川沿いには多くのコロニーが分布していた。なお、これまでにコロニーが確認された自治体数(合併前の212自治体で計算)は80で、現存する76コロニーが所在する自治体数は64であった。
Ⅱ 巣数および推定営巣数
今回の調査では、調査当時現存していた78コロニー(北見コロニーは除く)に合計7,601巣を確認した。このうち最も巣数が多かったのは網走湖コロニーの1,314巣で、二番目に多い植苗コロニーの347巣を大きく引き離していた。一方、朝里ダムと赤井川の2ヶ所は1巣ずつしか確認できなかった。1コロニーあたりの平均巣数は97.4±160.2巣で、10巣以下のコロニーが全体の9.0%、200巣を超えるコロニーが11.5%を占めていた。
続いて、これまでに確認されたコロニーのうち、現状不明の10コロニーを除いた112コロニーの推定営巣数を表1に示す。なお、現存コロニーについては最も最近の調査結果を、既に消滅したコロニーについては過去最も多かった時の推定営巣数を示す。
現存コロニーの中では最も多かったのは網走湖コロニーで約350巣と推定された。一方、消滅コロニーのうち200巣以上と推定(一部は実数)されたのは、稲穂(430巣)、釧路湿原(約320巣)、コムケ湖(311巣)、野幌(266巣)、大楽毛(約200巣)の5ヶ所で、それ以外は全て100巣に満たないコロニーであった。また、51巣から150巣までの中規模コロニーの割合は、現存コロニーのグループが35.5%であったのに対し、消滅コロニーのグループは12.5%(不明を除く)と少なかった。このように、現存コロニーにくらべて消滅コロニーは、小規模コロニーと大規模コロニーに二分化する傾向が見られた。
なお、現状不明のコロニーのうち植苗コロニーは、一時400-500巣に達し道内最大規模であったと推測された。ただし、これは他コロニーからの大量移入による1年限りの異常事態であったと考えられる。また、単独営巣はこれまでに6ヶ所(現存1、消滅3、不明2)で確認された。
北海道全体の総営巣数については、現在が約4,500巣、これに対して1960年当時は約1,000巣と推定された。1960年の数値については情報量が少ないため現存コロニーにくらべると精度が劣ると思われるが、多くとも上下300巣の誤差範囲に収まると考えられ、1960年以降現在まで総営巣数が増加してきたことは間違いないと思われる。
次に、コロニーの規模を示した分布図を図2に示す。推定営巣数が200巣以上の6コロニーは、野幌コロニー以外は全て海沿いに分布していた。また、200巣に満たないコロニーについては分布様式に顕著な傾向は見られなかった。
Ⅲ コロニー数と分布の変遷
道内のコロニーで、確認された年が比較的はっきり分かっているもののうち、最も古いのは1914年頃にすでに成立していたとされる野幌コロニーであった。しかし、これ以前にも千歳川コロニーの存在が知られているほか、記録が残っていないだけで実際は存在していたコロニーもあると思われる。こうした情報は時代を遡るほど不確かなものとなるが、1960年以降は文献や人からの聞き取りなどで比較的多くの情報が得られるようになり、ほぼ正確なコロニーの分布状況を把握できていると思われる。そこで、以下の分析には1960年以降のデータのみ用いた。
1960年から2000年にかけての10年毎のコロニー数の変化を図3に示す。各年のコロニー数は、それぞれ6(1960年)、10(1970年)、14(1980年)、48(1990年)、75(2000年)であり、1980年代以降急激に増加した。また、コロニー数の増加とともにその分布域も変化しており、海沿いから内陸へ向け分布域が拡張する傾向が見られた(図4)。また、1980年代の途中からは道北や道南などそれまで空白だった地域にもコロニーが分布するようになった。
Ⅳ コロニーの利用年数
道内でこれまで確認されたコロニーのうち、成立年ないし最初に確認された年があるていど正確に分かるコロニーについて、その継続年数を図5に示す。なお、コロニーによっては最初に確認された年が必ずしも成立した年ではない場合があるので、利用年数は全体的に過小評価されている。また、現存コロニーについては全て2004年まで継続して利用されているものとして計算した。
利用年数が判明したのは106コロニーで、このうち半数近い48.1%が10年以下の利用であった。一方、30年を超えて利用されているコロニーは10コロニー(9.4%)あった。また、10年以下の利用と30年を超える利用では、消滅したコロニーの割合が高かった。
Ⅴ 営巣木および営巣環境
今回の調査当時に現存していた79コロニーのうち、営巣木の本数が最も多かったのは平岡コロニーで244本であった。100以上の営巣木を有するコロニーは平岡を含め13ヶ所あったが、このうち10ヶ所は針葉樹林で、残り3ヶ所は広葉樹林(網走湖、植苗)と針広混交林(嵐山)であった。また、営巣木1本あたりの平均巣数が最も多いのは網走湖コロニーで5.87巣であった。1本あたり5巣以上のコロニーはこの他には幕別と上利別コロニー(ただし上利別は営巣木3本)しかなく、残りは4巣に満たなかった。今回の調査で最も多くの巣がかけられていた木は幕別コロニーのカツラで、41個の巣が確認できた。なお、野幌コロニーでは1992年と1993年に1本のカツラに96巣が確認されている。一方、針葉樹林のコロニーでは1本あたりの巣数が少なく、最も多いものでも長万部の1.78巣であった。
営巣木の平均樹高については、77コロニー(北見、朝里ダムを除く)のうち41コロニー(53.2%)で20mを超えていた。また、5コロニー(6.5%)は10m以下であった。10m以下のコロニーの植生は、タチヤナギ林2ヶ所(三栄、宝池)、カシワ林1ヶ所(江差)、および広葉樹林2ヶ所(野花南、雷電岬)であった。また、営巣木の胸高直径は、6コロニー(7.8%)で50cmを超えていたが、5コロニー(6.5%)は20cm以下であった。
今回の調査では79コロニーに合計4,237本の営巣木を確認(北見コロニーで本数が正確に区分できなかった約19本を除く)し、枯死木など樹種が特定できなかった54本を除き41種を同定した。なお、ヤナギ類については、タチヤナギとエゾノバッコヤナギ以外は全てヤナギ類として1種扱いにした。このうち針葉樹は6種で全体(不明種を除く)の63.0%を占めていた。また、針葉樹で最も多く利用されていた種はカラマツ(37.7%)で、広葉樹で最も多かったのはミズナラ(7.4%)であった。また、最も多くの樹種が利用されていたところは留萌コロニーで、12の異なる樹種の営巣木が確認できた。
営巣面積は、網走湖コロニーが53,300m2で最大であり、他に較べて圧倒的に大きかった(表2)。その他のコロニー(北見コロニーを除く)は最も大きなコロニーでも8,600m2(平岡)で、全コロニーの半数は1,700m2以下であった。また、30コロニー(38.5%)は1,000m2以下であった。
次に、営巣地の地形および植生についての立地環境別のコロニー数を表3に示す。地形については、平坦地のコロニーが63.3%に達し、斜面につくられたコロニーよりも多かった(不明、ブイは計算から除外、以下同様)。また、植生については、広葉樹林につくられたコロニーが39.4%、針葉樹林が32.8%、針広混交林が27.9%となり、特定の植生タイプがとくに多いという傾向は見られなかった。ただし、道内の植生では針葉樹林の占める割合は非常に少ないので、営巣場所として針葉樹林が選択的に利用されている可能性はある。また、地形と植生の組み合わせでは、平坦地の針葉樹林につくられたコロニーが最も多かった。同環境につくられたコロニーはこれまでに1ヶ所しか消滅した事例がなく、現存コロニーに占める割合は32.9%に達した。また、水上につくられたコロニーが5ヶ所あった。その内訳は、ブイの利用が2ヶ所(幌向ダム、朝里ダム)、水没したヤナギ林での営巣が2ヶ所(三栄、宝池)、水没した単独木での営巣が2ヶ所(ウエンシリ、幌向ダム)であった。なお、幌向ダムについてはブイと水没した単独木の両方で営巣が見られた。
Ⅵ アオサギによる人間への被害状況
(1)養魚場での被害
今回の調査では13コロニーにおいて、近くの養魚場ないし孵化場でのアオサギによる食害の報告があった。これに該当するコロニーは、、標津、計根別、阿寒湖、一歩園、仙美里ダム、幕別、水光園、占冠、芦別、遠幌、白老、平取、三石である。ただし、全ての養魚場を調査したわけではないので、これらのコロニー以外にも養魚場の被害はあると思われる。
養魚場ではアオサギを寄せ付けないように工夫をしているところも多かった。具体的には、水面や水際にネットやテグスを張る、水際の傾斜を急にする、風車を設置する、犬を放し飼いにする、池をビニールハウスで覆うなどの対策が採られていた。しかし、素掘りの池や釣り堀用の池では効果的な防除法を導入するのが難しいようであった。また、個人経営の養魚場ではそうした対策に十分な経費がかけられないこともあり、被害は減らせてもアオサギの飛来を完全に阻止するのに成功した養魚場はほとんど無かった。
(2)水田での被害
今回の調査では、水田での被害の報告が12件あった。該当コロニーは、剣淵、中愛別、嵐山、鷹泊、小平、留萌、砂川、野花南、鹿沼、門別、三石、寿都である。ただし今回、被害についての情報がとくに得られなかった場所についても、水田のある地域では多かれ少なかれ被害のあることが予想される。
被害内容のほとんどは稲の苗をアオサギが踏みつぶしてしまうというものであった。この被害は、稲の丈が低くアオサギが水田で餌(ドジョウ、オタマジャクシ、タニシなど)を探すことのできる時期に起こり、稲が生長するとともに被害は少なくなる。また、苗の踏みつけ以外に、稲を茎ごと引き抜くといったものや、穂をしごいて食べるといった報告も少数あったが、アオサギは穀物は食べないことから、実際は稲についている貝やカエルなどを捕獲しているのであろうと推測される。また、アオサギが水田に飛来したことでそれまで見られなかった水草が繁茂したという報告もあったが、その因果関係については推測の域を出ておらずその真偽は不明である。 水田の被害については、定量的な報告は無く個人の感覚に頼っている状況で、同一地域の水田であっても大変な被害があるという人もいればたいしたことはないという人もいるなど様々であった。なお、今回の調査では、水田での被害により駆除申請がなされたという報告は聞かれなかったが、かつて門別コロニーでは、被害に困った水田農家の人々が営巣林の所有者に伐採を頼み、営巣林が皆伐されたことがあった。
(3)林の被害
アオサギが営巣することで所有林が枯死枯損したという報告が2件(雄武、鹿沼)あった。また、それ以外のコロニーでも営巣木がその周囲の木と比べて著しくダメージを受けていると思われるところが数ヶ所で見られた。ただし、同じような質の林でも枯死枯損の度合いが激しいところもあれば、長期間利用されているにもかかわらず全くダメージを受けない林もあり、営巣木に対するアオサギの影響の程度は一様ではなかった。
(4)その他
民家に隣接して比較的大きなコロニーがあるところでは、子育て期間中のヒナの鳴き声がうるさいという苦情が聞かれた(雄武)。他には、ビニールハウスにアオサギがとまるのでビニールが破れるといった被害(瀬戸瀬)や、アオサギの声に牧場の牛が驚いて怪我をするといった被害(押帯)があったが、いずれも一件のみの報告で一般的な事例ではないようであった。
Ⅶ アオサギに対する人為的影響
今回の調査で、少なくとも15ヶ所で営巣林の伐採があったことが分かった。これに該当するコロニーは、音威子府、朝日、北見、阿寒、十弗、押帯、幌加内(長留内)、丸加高原、上志文、明野、鹿沼、鹿沼(旧コロニー)、穂別、平取、門別である。ただし、消滅時の経緯が不明なコロニーもあるため、他にも営巣林が伐採された可能性はある。15ヶ所のうち、コロニーのある林分全てが伐採された所は、音威子府、鹿沼、門別の3ヶ所で、林の一部が伐採された所は、阿寒、押帯、明野、穂別、平取の5ヶ所であった。これ以外のコロニーについては伐採の程度が不明であった。また、音威子府、朝日、押帯、明野、鹿沼(旧コロニー)、穂別、平取、門別の8ヶ所は伐採の後、付近の林に移動するなどして営巣が続けられた。また、北見コロニーでは、伐採後、巣を別の林に移すことで人為的にコロニーが移設された。これ以外の6コロニーは伐採により消滅した。なお、この他にコロニーに隣接する林が伐採された所が3ヶ所(芽登、嵐山、小平)あったが、このうち嵐山と小平はその伐採が原因で営巣場所の移動が起こったと推測されている。
伐採の理由としては、開発によるものが5ヶ所あり、その内訳は、道路建設(幌加内(長留内))、ゴルフ場建設(丸加高原)、湿原の埋め立て(明野)、農地開発(鹿沼(旧コロニー)、穂別)であった。開発以外の理由としては、鉄道防風林の保安目的(音威子府)、牧場の牛への被害の軽減(押帯)、林の枯死枯損による経済的損失の軽減(鹿沼)、周辺住民からの苦情(門別)があった。残りの6ヶ所については伐採の理由は不明である。
一方、伐採の計画があったものの地元住民等の要望により林が保全されたケースが8件あった。これに該当するコロニーは、標津、西春別、音別、金山湖、占冠、平岡、明野、穂別である(穂別については一部を伐採、残りを保全)。また、コロニーの近くで行われる土木工事に際し、アオサギの営巣活動に悪影響が出ないよう工事の手法や時期が調整されたケースが2件あった。そのうちのひとつはコロニーに隣接して大規模なショッピングセンターが建設された平岡コロニーであり、もうひとつはコロニーの真下をトンネルが貫通した雷電岬コロニーである。なお、これら以外に、工事によるアオサギへの影響評価が実施されたコロニーが少なくとも3件あった。
なお、人間による間接的な影響としては、移入種であるアライグマが問題となっており、アライグマがコロニーの放棄に関与したと疑われているケースが1件(野幌)あった。アライグマの影響については、ヒグマなど他の地上性捕食者の影響と区別するのが難しいが、野幌以外の場所(例えば、幌向ダム、宝池)でもアオサギの営巣状況の変化に関与した可能性はある。
Ⅷ 営巣地の保全状況
現存コロニーにおける営巣林の所有形態を見ると、公有林が34ヶ所(国有10、道有9、市町村有15)に対し私有林が45ヶ所で、私有林の占める割合のほうが多かった(道有林と私有林の両方にまたがっていた3コロニーについては二重に計算した)。また、法律上の保護規制のある地域に位置しているコロニーは8ヶ所あり、その内訳は、国立公園が1ヶ所(ペンケ沼)、国定公園が2ヶ所(網走湖、じゅんさい沼)、道立自然公園が2ヶ所(厚岸、桂沢湖)、自然環境保全地区が1ヶ所(沼の端)、環境緑地保護地区が1ヶ所(幕別)、学術自然保護地区が1ヶ所(志文)であった。さらに、国設鳥獣保護区内に位置するコロニーが2ヶ所(ペンケ沼、厚岸)あった。道設鳥獣保護区については3ヶ所(北見、網走湖、じゅんさい沼)確認できたが、十分な資料調査ができなかったので、これら3ヶ所以外にも指定されている可能性はある。