2. アオサギの置かれている現状
(1)種としての保全上の位置づけ
アオサギ(Ardea cinerea)は旧大陸(アジア・アフリカ・ヨーロッパ)に広く分布し、個体数も多い(注1)。このため、IUCNのレッドリストでは「軽度懸念(LC)」に分類されており、現在、種としての絶滅が心配される状況にはない。また、日本に生息する亜種 jouyi(サハリン南部から東南アジアにかけて分布)は、基亜種 cinerea に次ぐ分布域と個体数を有すると見られており、亜種としても保全上の差し迫った懸念があるわけではない。しかし、地域レベルで見ると、過去には過度の駆除が一国のアオサギを絶滅寸前にまで追い込んだ事例(注2)もあり、駆除が個体群の存続に重大な脅威となってきたのも事実である。
(注1)全世界の個体数はデータの無い地域が多いため明らかでないが、たとえば、ほとんどの国で詳細なモニタリングが行われている西ヨーロッパ(北西アフリカを含む)では、全域で約31万羽が生息すると見積もられている(出典:Kushlan J.A. 2008. Conserving Herons – A Conservation Action Plan for the Herons of the World -. 93pp.)。
(注2)20世紀初頭のフランスでは、過度の駆除のため、保護区内のコロニー1ヶ所を除き国内のアオサギはほぼ絶滅したとされる(出典:Kushlan J.A. and Hafner H. 2000. Heron Conservation. Academic Press. 496pp.)。
(2)国内の生息数と分布状況
国内のアオサギの生息数についてはほとんど何も分かっていない。ただし、いくつかの地域(7道府県)では都道府県かそれよりも小規模の地域レベルで調査がなされており(注1)、個別にあるていど正確な生息数が見積もられている。当研究会ではそれらの調査報告をもとに、調査されていない地域の生息数を推定し、極めて大雑把な見積もりながら全国のアオサギの生息数を約43,000羽(±20,000羽)と推定した。
一方、生息数の推移についてはさらに乏しい知見しか得られていない。全国的な生息数の変化についてはまったく情報がないが、都道府県レベルでは少数の報告があり、たとえば北海道では1960年から2000年にかけて生息数が約4.5倍になったと推測されている。また、近年の調査に限れば、増加傾向が見られた地域(茨城県、2002-2011年)がある一方、必ずしも顕著な変化が見られない地域(福井県、2005-2012年)もあり、その傾向は一定していない。
また、生息分布については、環境省の自然環境保全基礎調査で繁殖分布調査が過去3回行われており(注2)、以前にくらべ分布域が広がったことが明らかになっている(注3)。しかし、本報告書が問題としているここ十年あまりの期間については生息分布の変遷に関する情報はほとんど無い。
(注1)国内で比較的最近行われたアオサギの生息数調査の事例を以下に示す。
北海道:Matsunaga K. et al. 2000. Changing trends in distribution and status of Grey Heron colonies in Hokkaido, Japan, 1960-1999. Japanese Journal of Ornithology. 49: 9-16. および、北海道アオサギ研究会. 2005. 北海道におけるアオサギの生息状況に関する報告. 142pp.
長野県:長野県環境保全研究所 「カワウ及びサギ類等魚食性鳥類の県内における生息状況の調査研究」および、「アオサギの集団営巣地29カ所 環境保全研が初の調査」(信濃毎日新聞 2010年5月12日付)
茨城県:Mashiko M. & Toquenaga Y. 2013. Increasing variation in population size and species composition ratio in mixed-species heron colonies in Japan. FORKTAIL. 29 (2013): 71–77.
福井県: 福井県自然保護センター. 2008. 福井県におけるサギ類コロニーの分布と種構成 − 渡り鳥保全調査事業2005, 2006年度 −. Ciconia(福井県自然保護センター研究報告). 13: 11-19.(2008年以降は日本野鳥の会福井県サギ類調査グループによって同様の調査が継続され、同誌に毎年、報告が掲載されている)
滋賀県:藤岡正博ほか. 2001. サギ類コロニーの分布と種構成 – 茨城県と滋賀県の比較. 日本鳥学会2001年度大会講演要旨.
京都府:佐々木凡子. 2001. 京都府におけるサギ類の集団繁殖地の分布と保護. Strix. 19: 149-160.
大阪府:大阪市立自然史博物館 「大阪府下のサギの集団繁殖地」
なお、以下の報告では生息数は調査されていないがコロニーの分布状況が示されている。
兵庫県:新田朋子・奥野俊博. 2008. 兵庫県下のカワウ・サギ類のコロニーの現状について. 共生のひろば. 3号. 101-104.
(注2)鳥類の繁殖地の分布が調査されたのは、第2回(1978年)、第4回(1989-1992年)、第6回(1997-2002年)である。
(注3)繁殖地が確認されたメッシュ(20kmメッシュ)の数で比較すると、第2回から第4回にかけては15メッシュから113メッシュへと大幅に増えたものの、第4回から第6回にかけては113メッシュから114メッシュとほとんど変わっていない。
(3)有害鳥獣としての位置づけ
指針では、アオサギは「一般鳥獣」に分類されており、その駆除については、必要に応じて狩猟鳥獣の管理に準じた対策を講じるものとされている。アオサギの駆除についてのこの基本スタンスは現在も変わっていない。しかし、近年、アオサギの駆除に関して制度面でいくつかの重要な変更があり、以前より簡易化された仕組みのもとでアオサギの駆除が行われるようになった。以下にそれら制度面での変更点を列挙する。
【捕獲許可権限の国から都道府県への変更】
平成11年の地方分権一括法の制定に伴い鳥獣保護法の一部が改正(平成12年4月1日施行)され、従来、環境庁長官が担っていた捕獲許可の権限の大部分が都道府県知事のもとへ移された。この結果、アオサギの有害駆除の権限は都道府県知事が担うこととなった。
【捕獲許可権限の都道府県から市町村への委譲】
同じく、平成11年の地方分権一括法の制定に伴い地方自治法が改正(平成12年4月1日施行)され、条例による事務処理の特例で都道府県知事の権限に属する事務の一部を市町村へ委譲することが可能となった。委譲可能な事務には鳥獣捕獲の許認可事務も含まれており、この結果、市町村自らがアオサギの捕獲権限を有し駆除を実施できるようになった。
【有害鳥獣捕獲に係る許可基準の緩和】
国が平成19年1月に告示した鳥獣保護法の指針において「有害鳥獣捕獲についての許可基準の設定」に一部変更があり、駆除を目的とした捕獲を許可するにあたり「特に慎重に取り扱う」べき対象種からアオサギが除外された。これに伴いアオサギの予察捕獲が可能となった。
【市町村による被害防止計画の策定】
平成19年12月に鳥獣被害防止特別措置法が公布(平成20年2月21日施行)され、市町村が鳥獣被害防止計画を独自に策定し、同計画に沿ってアオサギの駆除が行えるようになった。また、同計画でアオサギの駆除を計画した市町村は、条例による捕獲権限の委譲が行われていない場合は、都道府県に対し同権限の委譲を要望できるようになった。
もくじ
- ・ 図表
-
- 表1. 市町村別駆除実績の概要
- 表2. 防止計画の概要
- 表3. 駆除時期に関する規定
- 表4. 報告時駆除数の差異
- 図1. 駆除数の経年変化
- 図2. 都道府県別駆除数
- 図3. 駆除計画および捕獲権限委譲状況
- 図4. 被害内容別駆除数
- 図5. 被害内容別都道府県別駆除数
- 図6. アンケート結果
- 付表1. 都道府県別年度別駆除数
- 付表2. 都道府県別被害対象別駆除数
- 付表3. アンケートの質問と回答
- 付表4. 駆除に関する規定
- 付表5. 許可基準表の記載内容
- 付表6. 予察表の記載内容
- 付表7. 防除方法等に関する記載内容
- 資料1. 各都道府県の問い合わせ先一覧
- 資料2. アンケートの内容
- 資料3. 防止計画関係箇所抜粋