4.(3) 駆除対象鳥獣に係る問題
駆除対象鳥獣は、本来、種ごとに被害が見積もられ、種ごとに駆除計画が立てられ、種ごとに駆除実績が報告されるべきものである。ところが、一連の駆除業務を通じて、アオサギと他種との区分が曖昧にされている状況が至るところで見られた。ここではとくに駆除数と被害金額について、アオサギと他種との混在状況を検証する。
まず、各市町村が記録している駆除数については、3県6市で他種との一括集計が確認された(表1)。このうち5市はいずれもアオサギを「サギ類」としてまとめており、他の1市は「サギ類」の他にカワウを加えていた。一方、「サギ類」とされたデータについて、はこれらの報告をとりまとめる県によって扱いが異なっており、たとえば佐賀県の場合は市町村からの報告同様に「サギ類」の区分を用いて国に報告していたが、広島県の場合は「サギ類」の内訳を個々の種名に置き換えて報告していた。後者は明らかな虚偽報告であり、4.(11)であらためて問題点の検証を行う。
次に、被害金額については、情報の得られた41市(注1)のうち9市が他種と一括して集計を行っていた。合算の対象は「サギ類」が5市でもっとも多く、他にカワウが1市、カワウおよびダイサギ、コサギが1市、カワウと他の水鳥が2市であった。
一方、防止計画について見ると、アオサギを対象として含む計画が53市で策定(複数市町村が合同で計画している場合は1市とみなす。以下同様)されていたが、冒頭の対象鳥獣名の欄に「アオサギ」と種名を明記していたのは30市に過ぎず、他の22市は「サギ類」もしくは単に「サギ」とのみ記し種名を特定していなかった(表2、資料3)。また、佐賀県A市の場合は「ドバト等鳥類」と記載しており、これにアオサギが含まれるとの解釈であった。
防止計画中の計画駆除数についても同じような状況で、記載のあった43市のうちほぼ半数にあたる21市が他種との合算で駆除数を見積もっていた。合算の対象として最も多かったのは「他のサギ類」で、これが14市と全体の3分の2を占めていた。また、他の6市は、サギ類、カワウ、カラス、ドバト、キジバト、ヒヨドリのうちの1種もしくは複数種と合わせて集計を行っていた。なお、前述の佐賀県A市は、計画駆除数についても「ドバト等鳥類」で一括していた。同市のやり方は手続の簡略化のみを目的に制度を利用したものとみなさざるを得ず、鳥獣保護の観点からも極めて問題のある行為といえる。
次に、防止計画に記載された被害金額については、被害額を算出している37市のうち約3分の2にあたる25市で他種との一括集計が確認された。合算の対象はサギ類が10市、カワウが5市などであった。カワウについてはこれ以外の7市でもサギ類等との一括集計が見られた。このように集計における他種との混在は駆除業務のあらゆる段階で確認され、混在の対象となる種も一様でないことが明らかになった。
自然河川や水田で複数種が混在する場合、種ごとの被害金額の見積もりが正確に行えないのはあるていどやむを得ない。しかし、被害状況の調査を実施していれば大雑把な見積りていどはできるはずである。たとえば自然河川で魚の食害がある場合、被害量を魚の減少分から推測することは現実的には不可能で、普通は鳥が捕食した量から推測することになる。そのためには飛来する鳥の種類や飛来数等を確認しなければならないが、そうした調査が行われていれば被害内容は自ずと種ごとに算出されるはずである。すなわち、種ごとの被害量を出せないのは必要最小限の調査すら行っていないことの証といえる。
アオサギを含むサギ類は外見こそ似ているものの、食性をはじめ分布域、渡りの習性など行動や生態は種によってまちまちであり、結果として被害の対象やその程度は種ごとに大きく異なる。そうした種を駆除対象として十把一絡げに扱うことは科学的な鳥獣管理とはおよそかけ離れたものと言わざるを得ない。とくにカワウについては単に魚食性の鳥類としてアオサギと同じ餌場を利用しているに過ぎず、アオサギと他のサギ類以上にあらゆる面で違いは大きい。また、カワウは特定鳥獣に指定可能な種であり、指定されている場合は駆除の制度面における扱いが一般種であるアオサギとはまったく異なる。そのような種とアオサギを同等に扱えば、単純なミスでアオサギに不当な捕獲圧がかかりかねない。実際、近年、カワウの駆除数とアオサギの駆除数は同調して増えており、カワウとアオサギを被害原因として同一視してきたことが、アオサギの不用な駆除を助長する主要因のひとつとなっている可能性は否定できない。
科学的に鳥獣を管理するためには種の厳密な区分は不可欠であり、区分を蔑ろにして駆除を行えば必ず特定の種の捕獲圧を不必要に高めることになる。アオサギの駆除においてはそうした弊害が生じている可能性が高い。駆除業務のすべての段階において種を明確に区分し、異なる種を一括して扱うことのないよう関係者への周知徹底に努めるべきである。
(注1)被害金額については、駆除申請時にそもそも算定を求めていない自治体が多い(4.(5)参照)こと、および、当事項についての聞き取り対象を任意の一部市町村に限ったことなどから、情報の得られた市町村は全体のごく一部に留まる。なお、当該事項においては、漁協が河川流域の複数の市町村に一括して駆除申請を行っている場合は1市の事例としてまとめた。