4.(4) 駆除数に係る問題
今回の調査では、駆除数が適切に設定されていない事例が多くの自治体で確認された。駆除を行うにあたっては、被害状況とアオサギの生息状況を把握するとともに、駆除を行った場合の被害軽減効果およびアオサギへの影響を評価し、その上で科学的に妥当な駆除数を定めることが不可欠である。しかし、多くの自治体ではこうした調査は満足にできておらず、駆除数を設定する正当な科学的根拠がないまま駆除が実施されていた。
アオサギの生息状況調査については4.(1)で述べたとおりで、ほとんどの自治体で実施されていない。一方、被害状況調査については今回とくに調べていないが、被害金額が見積もられていない場合が多い(4.(5)参照)ことからみて、被害状況についても調べていない自治体が少なくないものと考えられる。
また、被害額が見積もられた場合であっても、その被害を軽減するのに必要とされる駆除数が適切に評価されていない場合もある。たとえば岩手県A市では、防止計画で稲の踏み倒しによる被害額を37,500円と見積もった上で、これを半減(18,800円)するために3年間で150羽の駆除を計画していた。わずか2万円弱の被害軽減のために毎年50羽ものアオサギを駆除することは、効率の面からも愚策としか言いようがないが、何よりも動物倫理の観点から到底受け入れられないものである。これに類するケースとしては、たとえば漁業被害5万円に対し21羽を駆除した例(長野県B市)、農業被害3万円(注1)に対し21羽を駆除した例(大分県C市)などが挙げられる。
なお、被害金額どころか被害の内容そのものを把握していない自治体もある。たとえば島根県D市では申請書に駆除の理由を書くことを求めておらず、単に有害だからという理由で駆除を許可していた。同市ではこのように駆除の妥当性をチェックする機能がまったく働いていないにもかかわらず、平成22年度は89羽ものアオサギを駆除しており、著しく杜撰な鳥獣管理と言わざるを得ない。
さらに問題なのは、駆除を許可する段階で駆除数を定めていない自治体があることである。たとえば、新潟県E市、和歌山県F市、岡山県G市では、ハンターが必要以上の羽数を駆除することはない等の判断から、駆除数の設定は現場でのハンターにすべて任せている。また、熊本県H市のように、一人当たりの駆除数の上限のみ設定し全体の許可数を予め定めていないケースもある。この場合、駆除に参加するハンターの数が増えればそれに比例して駆除数の上限が上がるため、実質的に駆除数を制限していないのと同じである。
駆除数を巡っては、ここに挙げた問題の他にも他種との一括集計(4.(3)参照)や実績報告時の数値の不一致(4.(11)参照)など懸念すべき問題がとりわけ多い。こうした問題が不用な駆除を助長する一因になっているのは疑いのないところである。
指針では、許可時の駆除数を「被害を防止する目的を達成するために必要最小限の数」と定めている。「必要最小限の数」は全国一律に基準を設定できるものではないが、地域における個々の事案については、被害状況や生息数など地域固有の状況をもとに具体的な数値を設定することが十分可能である。アオサギの管理を適正に行うためには、正当な科学的根拠に基づいた駆除数の設定が不可欠であり、駆除数の算出根拠が得られないのであれば駆除は行うべきではない。また、算出根拠があってもそれを駆除数に適切に反映できなかったり、そもそも駆除数の設定すら怠っているような自治体は鳥獣管理の能力がないのは明らかであり、そうした問題のある自治体には駆除業務を任せるべきではない。