4.(5) 被害金額の見積もりに係る問題
被害金額は、被害の状況を客観的に把握する上で最良ではないにしろ現状ではもっとも有益な情報となるものである。しかし、都道府県、市町村のいずれにおいても被害金額を十分に見積もっていないところが多く、駆除の正当性が客観的に示されないまま駆除が実施されているのが実情である。
アンケート調査によると、市町村に捕獲権限を委譲していない25都道府県において、被害金額の提示を求めていたのは7県のみで、他の15都道府県は提示を求めていなかった(他3県は無回答など。付表2)。また、権限委譲済みで駆除実績のあった任意の34市(防止計画を策定している市町村は除く)について同様の質問を行ったところ、17市が被害金額の把握ができていなかった。さらに防止計画を策定している54市については、15市で被害金額が算出されていなかった。このように、都道府県、市町村とも多くの自治体が被害の程度を量的に見積もることなく駆除を行っている実態が明らかとなった。
駆除申請を受理する際に被害金額の提示を求めないのは、駆除の妥当性を客観的に評価する手段を行政自らが放棄しているのと同じである。稲の踏みつけや魚の食害については定量化が難しいのは理解できるが、被害の実体がある以上、推定すらできないということはあり得ない。被害金額は必ず提示するよう求めるべきであり、金額を算出していない申請は受理すべきではない。
また、被害額は提示されるだけでなく被害の実態が正しく反映されている必要があるが、駆除申請の受理にあたって被害額の正当性を確認する作業は必ずしも行われていなかった。今回の調査では、被害額の提示を求めていた17府県のうち行政担当者が被害額を直接査定していたケースは9県に留まり、それ以外の8府県は申請者の自己申告をそのまま受け入れていた。また、市町村については、自己申告で被害額が提示されている場合に、算定の根拠が曖昧であったり算出法に間違いがあるなどの不適切な事例が多数確認された。
なお、被害額の不適切な申告は自然河川での漁業被害においてとくに顕著である。漁業被害では被害額を記載していない申請が多いだけでなく、額が提示されている場合でも、500万、1,000万といったどんぶり勘定としか思われない数値が少なくなかった。また、今回は2漁協から申請内容の具体的な内訳についての情報を得たが、これら漁協の被害額の算定方法にはいくつかの致命的な問題が確認された(注1)。つまり、被害額に細かな数値が示されている場合でも、その数値が必ずしも適正な科学的根拠にもとづいて算出されているとは限らないということである。
こうした例を挙げるまでもなく、とくに小規模な団体や個人の場合は、鳥獣の生態に関する知見や算術のスキルを必ずしも備えているわけではなく、被害額を適切に算定できない場合が少なくないと考えられる。この点に関しては今後も大幅な改善は期待できないことから、行政のほうで具体的な審査基準を設定し、申請内容の不備を見落とさないよう責任をもって厳格な審査を行うか、そうでなければ最初から行政主体で被害の見積もりを行うなど、正確な被害額が算出されるよう審査ないし査定の制度を見直すべきである。