4.(9) コロニーでの駆除に係る問題
コロニーでの駆除は、捕殺対象の個体だけでなく捕殺対象外の個体にも多大な悪影響を及ぼし、個体群そのものの存続さえ危うくしかねない極めて問題の多い行為である。にもかかわらず、今回の調査ではコロニーで営巣中のアオサギを直接駆除している事例が複数の自治体で確認された。
鳥獣保護法第9条には「捕獲等又は採取等によって鳥獣の保護に重大な支障を及ぼすおそれがあるとき」は捕獲を許可しないとの規定がある。コロニーでの駆除はコロニーそのものを消滅させる危険性が高く、この点のみを考慮しても「鳥獣の保護に重大な支障を及ぼすおそれがある」のは明らかである。つまり、コロニーでの駆除はたとえ有害駆除であっても法に抵触する恐れが極めて高い行為といえる。
今回の調査では、平成22年度に少なくとも4市(新潟県A市、同B市、滋賀県C市、福岡県D市)がコロニーで駆除を行っていたことを確認した。このうち新潟県A市では、コロニーで営巣中のアオサギ33羽を駆除した結果、100羽以上の規模のコロニーが完全に放棄されていた。また、過去に行った駆除がコロニー移動の直接の原因になったとみられるケース(島根県E市)もあった。なお、当事案は任意の一部市町村にしか問い合わせていないため、コロニーで駆除を行っている市町村は上記4市に留まらない可能性がある。
コロニーでの駆除が実施される理由はさまざまである。平成22年度に駆除を実施した4市のうち新潟県A市と滋賀県C市は、コロニー周辺での鳴き声やフンによる被害を理由としており、これはコロニーの存在そのものを問題視した事例といえる。一方、新潟県B市と福岡県D市は養魚場での食害や稲の踏みつけを理由としており、コロニーそのものに直接の原因を求めたものではない。このうち後者のように被害発生箇所がコロニーの外部であるにもかかわらずコロニーで駆除を行っているケースについては、単に駆除の効率化を優先したとみなさざるを得ず、コロニーで駆除を行うことの正当性はまったく認められない。一方、前者のように被害の原因がコロニーそのものにある場合は、コロニーを対象とした何らかの対策が必要となるが、その場合でも基本的には追い払いで対応するのが妥当である。
アオサギの具体的な追い払い方法等については4.(2).ⅲおよびⅳで述べたが、よほど特殊な条件下にあるコロニーでない限り、殺傷を伴わないアオサギの追い出しは可能である。実際、同項ⅲで示したとおり、種々の防除法で被害を抑えつつアオサギとの共存を図っている自治体は少なくない。場合によってはコロニーの存在がどうしても許容できないケースも出てくると思われるが、その場合でも駆除を行うのではなくコロニーの移設で対応すべきである(移設については4.(2).ⅳ参照)。
一方、上述の新潟県A市は、そうした方法をとらず、追い払いを諦めコロニーでの駆除を実施した望ましくない事例である。同市によると、同コロニーへの苦情は駆除を実施する数年前からあったという。コロニーの立地条件はさまざまであり、追い払いの難易度を一律に評価することはできないが、それだけの時間的猶予があればコロニーの移設を含めさまざまな防除法が試せるはずであり、それでも追い出せないのは単純に努力不足の可能性が高い。
このように安易にコロニーでの駆除を行うことは、保護上の問題だけでなく、人との間に新たなトラブルを引き起こす公算が大きいという点でも問題である。一般にコロニーが撹乱されると、アオサギは自然度の高い環境から人の生活圏により近い環境にコロニーを分散移動させる傾向がある(注1)。結果として、人との軋轢がそれまで以上に高まる場合が多い。このようなコロニーの分散化の傾向は、たとえばカワウなどでも確認されており(注2)、コロニーの撹乱による移動分散を引き起こさないことが、被害地域の拡大を防止するために重要との認識が確立されてきている。この考え方はアオサギに対しても同様に適用すべきものである。
なお、都道府県の中には、鳥獣保護事業計画においてコロニーでの駆除を許可しないと規定しているところもある。たとえば秋田県と広島県は、原則としてコロニーでの捕獲は許可しないとしており、千葉県も「サギ類の集団繁殖地(中略)に係る捕獲許可は特に慎重に取り扱う」との規定を設けている(表3)。さらに、コロニーでの駆除について直接の言及はないものの、宮城、石川、徳島、香川の各県は、繁殖期の駆除は許可しないとの立場をとっている。アオサギが基本的に繁殖期以外にコロニーに留まることがないことを考慮すると、これら4県についてもコロニーでの駆除を実質的に許可していないとみなすのが妥当である。一方、これら以外の都道府県はコロニーでの駆除を禁止する規定をとくに設けていない。
コロニーはアオサギを個体群レベルで見た場合の最小単位であり、そのコロニーを破壊し消滅させることは、個体群の動態予測を軸としたアオサギの管理を実質的に不可能にするものである。また、コロニーの撹乱は結果的に人とのトラブルを拡大するリスクが高い上、最初に述べたように法律面での問題も大きい。このように、コロニーでの駆除はさまざまな問題を抱えていることから、緊急かつ甚大な人的被害がある場合以外は許可すべきではなく、コロニーの存在が許容できないほどの事態が生じた場合は、駆除ではなく人為的なコロニーの移設で対応すべきである。なお、コロニーでの駆除は繁殖期に行われることからさらに多くの保護上の問題を抱えることになる。この問題については次項で述べる。
(注1)北海道アオサギ研究会. 2005. 北海道のアオサギの生息状況に関する報告. pp142.による。
(注2)環境省. 2013. 特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き(カワウ編). pp.202.による。