4.(11) 捕獲実績報告の取り扱いに係る問題
駆除実績については、市町村、都道府県、国のいずれにおいても、記録が適切に管理されておらず、また、そのデータが以後の管理計画に役立てられていないことが明らかとなった。
今回の調査では、市町村、都道府県、国のそれぞれから個別に駆除数のデータを収集したが、これらの数値を照らし合わせた結果、市町村と都道府県、都道府県と国のいずれの間にも数値の不一致が確認された(表4)。まず、市町村から都道府県への報告では5県で数値の食い違いが見られた。こうした間違いが生じるのは、「市町村の報告の一部が都道府県への年間報告に間に合わない(注1)」(広島県A市)、「市町村のほうからサギ類の名前で報告されるなど基準が統一されていない」(鳥取県、山口県)ことなどが理由だという。しかし、これらの問題は事務的に改善が可能であり、問題が放置されているのは単に行政の怠慢と言わざるを得ない。また、こうした間違いは単年のみの偶発的なミスに留まらず常態化している場合もある。たとえば、今回たまたま過去のデータが参照できた徳島県では、調査時点までの少なくとも7年間にわたり一度も数値が一致していなかった。
一方、都道府県から国への報告では6県で不一致があり、この結果、都道府県の個別集計で合計3,111羽であった駆除数が、国の公表値では3,412羽と1割近く多くなっていた。不一致のあった6県の中ではとくに広島県の食い違いが際だって大きく、県の集計時に263羽であった駆除数が、国に報告された段階では542羽と倍増していた。県の担当者によると、この差が生じたのは、市町村からサギ類として報告のあった駆除数の一部をアオサギの駆除数として加えたことが理由だという。具体的には、種名が確定している駆除数をもとにサギ類の中でのアオサギの比率を計算し、これに市町村からサギ類として報告のあった312羽(注2)を掛けてアオサギの駆除数を279羽と推定、この推定値にアオサギであることが確定済みの263羽を加え、合計542羽として報告したという。つまり、国にアオサギとして報告された駆除数の半分以上は単なる推定値に過ぎないということになる。このように故意に操作されたデータはデータとして全く意味をなさないばかりか鳥獣の管理計画を作成する上で極めて有害である。あからさまな虚偽報告であり断じて容認されるべきものではない。
ところで、市町村からの駆除実績は年度終了後すみやかに都道府県に報告されるはずであるが、都道府県によってはこれらデータの集計が迅速に行われていないケースが見られた。たとえば北海道の場合、平成22年度のデータが1年以上を経た平成24年5月末の時点でもまだ整理されていなかった。もっとも、同時点で当調査の質問に回答を終えていた都道府県は全体の4分の1に満たなかったことから、北海道以外の都府県でも同様にデータの整理が遅れていた可能性は否定できない。
一方、国についてもデータの有効活用に対する積極的な姿勢はまるでうかがわれない。駆除数のデータについては、今回、ネット上で閲覧できる「鳥獣関係統計」を参考にしたが、ここに駆除数が発表されるのは当該年度終了後、1年半以上経ってからである(しかもその時点で公表されるのは暫定値であり、確定値の発表はさらに数ヶ月遅れる)。また、同資料の整理のされ方は極めて稚拙で、行政担当者、一般を問わず、利用をまるで想定していないことが明らかである(注3)。
このように、現在の制度では駆除数に関する情報が正確に伝えられないばかりか、その伝達に異常に長い時間がかかっているのが実情である。また、駆除数以外の情報(被害の種類、被害金額、防除対策、駆除の実施場所等)については、市町村から都道府県、もしくは都道府県から国への報告の段階でことごとく除去され、記録として残らない場合も多い。今回、データの管理については具体的に調査しなかったが、市町村によっては紙ベースの記録しか残しておらず、こちらが資料の提供を求めると、資料を倉庫に探しに行かなければならないといった状況をしばしば経験した。さらに、佐賀県B市のように、アオサギなど報奨金対象外の鳥獣の記録については監査の対象から外れるため翌年度には処分するという自治体もあった。また、処分はしていなくてもデータが共有されておらず、担当者が変わると調べようがないといったケースも多かった。このような状態では貴重な資料を今後の鳥獣管理に活かすことができないのは明らかである。指針は「計画や実施状況を絶えず点検の上修正し、より的確なものへと見直す順応的管理」を求めているが、それを行うための手段を自治体が自ら放棄している現状では順応的管理など到底不可能といえる。
こうした状況を改善するためには、一元化された情報管理システムの整備が不可欠である。そのためにはまず、駆除に係るすべてのデータを漏れなく記載できる全国一律の様式を用意し、そこに記録されたデータをすべて電子化することである。また、とくにアオサギなど広域管理が求められる種については、複数の自治体の記録を同時に参照する必要があることから、これらのデータについては個々の自治体内に留めるのではなく、すべての自治体が必要な情報に即座にアクセスできるよう、クラウド上に保存するしくみに改めるべきである。
今回の調査項目のかなりの部分については都道府県だけでなく市町村にも個別に問い合わせる必要があったが、これは都道府県の多くが情報を集約していないためで、たとえ当研究会でなく行政内部で同様の調査を行ったとしても手間は同じと思われる。公表が難しいわけでもないデータの収集にこれほどの手間がかかるというのは現代社会においては極めて異常な事態と言わざるを得ない。このことは駆除実績から得られる情報の有用性を行政がいかに軽んじているかの表れともいえる。行政は自らデータを検証し有効活用する能力を持つべきであるが、それができないのであれば、上で述べたようなシステムを通じてデータを一般に公開し、外部からの監視を受け入れるような制度も検討すべきであろう。
(注1)今回の調査は1年以上前の実績を対象としたので、一時的に報告が間に合わない場合でも後で修正していれば正確な値が記録に残っているはずである。
(注2)県からの聞き取りでは4市から「サギ類」として一括集計されたものが報告され、その合計が279羽になるという。一方、広島県の各市町村への聞き取りでは「サギ類」としてまとめているところは1市のみ(87羽)であった。残りの3市は県への報告の段階で敢えて「サギ類」としてまとめたと思われるが、今回、その理由については確認しなかった。
(注3)本報告書を刊行した平成26年11月現在、「鳥獣関係統計」のページはメンテナンス中のため閲覧できない。メンテナンスは同年2月6日に開始され、現在まで9ヶ月近くページを閲覧できない状況が続いている。