おわりに
平成26年5月、「管理」という語を法の名に加えた新たな鳥獣保護法が成立した。言うまでもなく、同法の定義する「管理」とは駆除とほぼ同義である。このことは今後の野生鳥獣管理において駆除の役割がこれまで以上に強化されることを意味している。もっとも、今回の改正はシカやイノシシなど被害のとくに深刻な一部鳥獣への対応に主眼を置いたものではある。しかし、同法がそれら一部の鳥獣だけでなくあらゆる野生鳥獣を対象とする以上、鳥獣管理において駆除のウェイトを高めていこうとする今回の姿勢が、今後、他の鳥獣への対応でも徐々に浸透していくであろうことは想像に難くない。
今回、本報告で対象としたアオサギは、一般鳥獣でありながら駆除数が際だって多いという特殊な立ち位置にある。アオサギより駆除数の多い鳥類のほとんどは個体数の多い狩猟鳥獣であり、それらの中には特別な管理計画が立てられるカワウのような特定鳥獣も含まれる。これら鳥獣や希少鳥獣、外来鳥獣については、鳥獣管理に十分な配慮が必要なことは論を俟たない。一方、これらいずれにも属さないアオサギの場合、一般鳥獣であるがゆえに最初から鳥獣管理の意識が希薄になりやすいという恨みがある。近年、野生鳥獣管理にあっては、駆除の簡易化、効率化ばかりが求められ、不要な駆除に歯止めをかけるための制度が十分に整備されてこなかった。アオサギはこうしたアンバランスな制度の弊害をまともに受けてきたといえる。今回の法改正がこの状況を助長しかねないことを深く憂慮するものである。
本報告は、アオサギを取り巻く鳥獣管理行政の現状を具体的に示すことに重点を置いたが、そこで明らかになったのは、多くの自治体が極めて不適切な鳥獣管理しか行えていないという実態である。これほどの杜撰さがなぜ看過されているか、それはひとえに相手が人ではなく物言わぬ鳥だからであろう。我々がこの事実に甘んじる限り、いくら共生などと言ったところで、所詮、言葉遊びの域を出ない。今回は、大見得を切って言えば、その物言わぬアオサギを代弁したつもりである。もっとも、彼らに言葉があればこのていどの批判では到底済まないであろう。駆除の不当性を訴えるだけでも何千頁もの分量になるはずである。それに対して我々の言い分はどうであろう。極端な場合、申請書にほんの数文字、「有害だから」と書くだけで駆除が許可されるのである。人と野生動物の共生を本気で目指すのであれば、まずはこうした我々自身の横暴を自覚することから始めるべきではないだろうか。
なお、本報告はアオサギを対象にしたものであるが、ここで指摘した問題はアオサギだけに関わるものではない。その他の一般鳥獣についても多かれ少なかれ同様の問題が当てはまるはずである。本報告書が、アオサギのみならず、一般鳥獣全体に対する行政の取り組みを問い直すきっかけとなれば幸いである。
今回の調査では、都道府県、市町村を合わせて150以上の自治体に直接電話で質問を行った。一度ならず二度三度と連絡をとらせていただいた方も多い。調査の性格上、かなり執拗な質問をせざるを得なかったが、ほとんどの方には御多忙にもかかわらず快く対応していただいた。ここに厚くお礼を申し上げる。
2014年11月吉日
松長克利